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阿弥陀三尊が往生者を迎えに来る様子を描いた阿弥陀三尊来迎図、美しくながい年月を重ねた来迎図です。
「鎌倉時代に最も流布したものに、法然教団で重用されたとみられる立像系の独尊と三尊の来迎図がある。・・ほとんど正面来迎の形式で、濃紺のバックに背景を描くことはなく、全身を金泥で彩色し、衣文に精細な截金をあしらうのが一般的で・・本尊はもとより来迎印。三尊の場合、観音・勢至はともにやや腰をかがめ、前者は蓮台をとり後者は合掌する。概ね1メートル足らずの小像で、臨終にそなえて念持仏として座右に懸用したらしい小品が多い。」(*1)
「鎌倉時代になって黄地の上に截金(きりかね)を置き、肉親も黄(金泥)で表すいわゆる悉皆金色(しっかいこんじき)と呼ばれる新しい表現方法が仏画や仏像に使用されるようになる」(*2)
「阿弥陀来迎図を見渡す時、庶民の結縁によって作られたであろう作品が大半である。それだけに最も日本的な仏画と云えるのである」(*3)
本三尊来迎図は、上記鎌倉時代の来迎図の流れを汲むものと考えます。また、早来迎といわれる、雲に乗り往生者の元へ駆けつける姿は、両足を別々の蓮台にのせる踏割蓮華上に立つことで、より「動」が、また、向かって左上から右下へ向かう構図からは、往生者の元への距離も、感じられます。
截金表現については、阿弥陀様の衣文の裾、特に鋭角になった箇所(中央画像一番下)が比較的見やすいと思うのですが、画像で白っぽく線状に、途切れ途切れに残っている輪郭など、截金が施された箇所かと思われます。
状態について、中央画像をご参照ください。
画絹は所々破れ欠損(2段目の画像)し、覗く裏打ちは大変目の詰んだ絹で、この仏画の補修された時期が江戸まで上る可能性を示すものかと考えます。何箇所もあるのですが、掛けた状態では、さほど気にならないと思われますが如何でしょう。
表装については、上下にやや染み・傷みがあります。雰囲気は、中央画像一番上参照してください。風帯は切れかかっており、裏を貼り替えましたが、その他、最近手の入った様子はありません。
時代については、大変粗い目の画絹を使用しており、所謂「室町絹(むろまちぎぬ)」(*4)と呼ばれるものかと思われます。
寄って見れば、画絹に欠損や折れ、金泥の剥離、また、阿弥陀三尊像も制作時の煌びやかさを失っていますが、幸いなことに、お顔はほぼ無事で視線も感じられます。往生者をのせる蓮台を捧げ持ち、先頭を行く観音菩薩の天衣(てんね)は透けて、風を受けて軽やかに舞う様も美しく、ほんとうに浄土へと導かれる思いがいたします。
本紙:縦62cm、横36cm 軸:縦142cm、横42cm 太巻
*1『日本の美術 273 来迎図』
*2『日本の美術 373 截金と彩色』
*3『浄土教絵画』京博 山本興二氏
*4『仏画の鑑賞基礎知識』
「江戸時代の画絹は逆に精練され目の詰んだもの」
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