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人の顔が人それぞれであるように、埴輪の顔も、ひとつひとつ異なります。
それは、愛くるしい顔であったり、怜悧な表情をみせたり、気品あふれる顔貌であったりします。
この埴輪は、そのいずれにも当てはまらない、幅と奥行きのある表情で、如何様にも見えてくる、不思議な魅力があります。
髪型や顔の側面等、男女を識別する箇所に欠失が多いのですが、左側面に僅かに残る小片は美豆良(みずら)の一部で、男性埴輪だと考えます。
見つめていると、ほのぼのとしたあたたかな空気、穏やかな人柄を感じました。そのうち、悲しいのかもしれないとも、思えてきたり、どうしたの、と問えば、やがて、何を見てるのか 気になりはじめました。
見るものの心を映しだす顔だと思われます。
造形的には、表情のかなめとなる双眸はとても丁寧に作られていています。鼻は特徴があり、上から下までほぼ同じ幅で、細長く、おだやかな鼻梁があります。口は、わずかに左右に広げているようで、何か話しているようにも見えます。
これら、双眸、鼻、口、には自然な経年変化によるソゲなど若干ありますが、基本的に古墳時代の、制作時の造形がそのまま残っています。
状態は、右頬の表面にそげ、右眉と、かぶっていたと思われる帽子の縁部分に欠失あり。補修はありません。
像高 :19.5 cm 総高(含台): 33 cm
想像力を逞しくすることが許されるなら、関東から防人に徴用された古代の無垢な日本人の顔を見るような気がいたします。
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