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薬師寺東塔相輪の水煙を飾る飛天、計24体のうちの一体を手拓したものです。
「水煙は四枚あり、それが十字型に組まれる。四枚とも同じ意匠で、各面表裏は同文である。意匠は三人の飛天をあらわしたもので、背景には飛天の天衣(てんね)と筋状の雲が透かし彫りされている。」(*4)
本拓は、一番下の飛天です。天空から横笛を奏でながら舞い降り、他の飛天より一足先に、薬師寺東塔の相輪に、片膝を折り着地した瞬間を活写するように感じられます。
本紙の印は残念ながら判読できませんでしたが、墨書は「薬師寺塔水煙飛 東北 昭和二六・八・三十一日手拓」と読めます。
「昭和二十六年春に薬師寺東塔の水煙が、東塔の修理のつごうで、地上に下ろされた」(*1)
「昭和二七(1952) 東塔・南門を修理する」(*2:年表)
この時手拓された一枚と考えます。よくみると、一度「西」と墨書したものを「東」と上から書き直しているようです。少しあわてたでしょうか、そんな様子も想像されます。
手拓された方は、すぐ上の飛天の手が入らぬよう心くばりされたようで、華籠(けこ)のみ半分程見えます。東塔の水煙が地上に降ろされるという、おそらく人生に一度のめぐり合わせに胸躍らせ、三人の飛天を一体ずつ別々に手拓されたのかもしれません。
四枚八面もあるのですが、同じ拓をさがしたところ、東大寺長老筒井寛秀氏のコレクション(*3:参考画像)がその可能性が高いようです。
入手時、折れがあり、それを判らぬように、また紙表具の色と大きさを落ち着いたものにかえ、簡易な桐箱・たとうをあつらえました。
飛天については文献によって、天女、天童、天男など、幾つか解釈があるようです。こちらの飛天、どのようにご覧になりますか。
年の初めに、皆様に幸多かれと、飛天をご紹介いたします。
軸:124 x 74 cm
参考文献
*1『天人の譜』長廣敏雄 淡交新社
*2『薬師寺 白鳳再建への道 天武天皇千三百年玉忌記念』
*3『東大寺龍松院秘蔵拓本展 会津八一の見た寧楽の仏たち』会津八一記念館
*4『白鳳 花ひらく仏教美術』奈良博 2015
どうもありがとうございました。
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