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輪切り状の塔身を四段、別鋳の二段式台座にのせ、こんもりと盛り上がった被せ蓋に五輪の相輪鈕を付す、平安後期の経筒です。肌は緑青色を基調に、緑の明暗、茶の濃淡など微妙に異なる色彩が複雑に絡み合っています。
同手の積み上げ式経筒の出土に関して、
「もともと、経筒などの出土品は、その地を明らかにしないものが多い。が、これは、同種の一群が北九州各地に出土するところから、それを明らかにする」(『センチュリーミュージアム名品展』)
「北部九州、とくに太宰府を中心に製作され埋納された」(『金峯山埋経一千年記念 藤原道長』)とあるように、
本経筒も、貼り紙「伝福岡県出土」のとおりと考えます。
肌に木炭の小片が幾つも付着しています。佐賀県の平安後期の経塚で、経筒を納めた石櫃の周囲を木炭詰めした事例があり、本経筒も同様に埋納されたとみます。
塔身に数条の沈線帯が確認できます。これは積上げ式経筒に共通に見られる特徴です。
補修痕が台座と塔身に見えますが、平安時代の経塚遺物であることを鑑みれば、状態は良い方と思われます。
本経筒は、台座上に木製円柱(画像参照)を置き、それを芯に輪切り状の塔身部を積み上げます。この円柱は、輪切り状塔身の微妙なフォルムに合わせ削られております。
埋納者の祈りを護り伝える経筒には神聖な空気が感じられます。さらに本経筒には、特徴ある蓋の丸いフォルムに、遥かインド・サンチーの最古のスツーパを見るようで、その上の五輪の相輪とともに、卒塔婆としてのフォルムの魅力があります。高:39.5 cm
参考画像
中央:四王寺経塚出土『日本の考古学』東博
右:原経塚出土 仁平二年銘(1152)『九州地方に埋納されたやきもの』奈良博
どうもありがとうございました。
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