|  | 「もと清水寺に伝えられたといわれる」(*)ことから清水(きよみず)切とよばれる鎌倉時代の装飾法華経です。 伝承筆者を後鳥羽天皇(1180 - 1239)とする著名な古写経切で、『古筆手鑑大成』所収のものにも、国宝手鑑『藻塩草』をはじめ、四葉みられます。
 
 『手鑑月臺』で古谷稔先生は次のように解説されています。
 「後鳥羽院の宸筆という確証はないが、そのしなやかで力強い筆致が「熊野懐紙」などに見る鎌倉初期特有の書風に共通するところから鑑定された・・いかにも能書帝王にふさわしい堂々たる筆致である」
 
 丈があり、細く強い線で構成され、針で書いたような線もみられます。一見して力強いというより、細身の中に芯の強さが見え、気高さも感じられます。大聖武とはひと味違った王者の風格でしょうか。伝承筆者を後鳥羽天皇とするのも頷けます。
 
 蛇足ですが、『古筆手鑑大成』『写経の鑑賞基礎知識』『手鑑月台』等に、界の上下の天蓋、蓮台を銀泥にて「描く」とありますが、どう視ても捺したようにしか見えません。「薄い銀泥で捺している」との解説を最近みつけ、やはりそのような解釈もあるのだと納得しました。
 
 経文は、薬王菩薩本事品第二十三からで、内容は、日月浄明徳仏が一切衆生気見菩薩に「阿耨多羅三藐三菩提法(法華経)、七宝の世界・宝樹・宝台など悉く汝にさずけよう」と語るところのようです。(**)
 薄緑地にブルー、グレーの模様のある布地マットは経切を美しくひき立てます。
 
 左と中央の画像は、ガラスをはずして撮影。
 サムネイルと右画像はガラスを入れた状態で撮影。
 
 *『写経の鑑賞基礎知識』至文堂
 **『法華経 下』岩波文庫
 
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