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尾題を含む薄墨経『大方広仏華厳経巻第十一』の巻末額装です。
淡墨の界線を引いた珍しい薄墨色(うすずみいろ)の料紙を背景に、深い墨の色が映える美しい断簡です。
書は個性あふれる楷書です。筆を自由にあやつり、命毛で刺さるような極細の線をだしたり、ぽってりと巾2ミリにも及ぶ太い線をだしたりと、楽しみながら書写しているように見えます。
平安時代後期の写経の書風の特徴として「和樣の書体の中に書き手の個性が前面に押し出されるようになった」『古写経』京博 とあります。この書もそのような時代のものと考えます。
最後の一行を除き五文字偈ですので、一行あたり二十文字の書は扁平で一段と詰まった印象をあたえます。巻末の余白の中では尾題が引き立っています。このような変化に富んだ紙面構成も面白みがあります。
薄墨経とは供養の目的で故人ゆかりの消息などを漉き返した薄い鼠色の料紙に書写したものをさしますが、田中塊堂氏は『日本寫經綜鑒』の中で、
「漉き直しの料紙であるが、必ずしも故人の反古といふ訳ではなく、染料を用いたものもある」と述べております。
上品な淡い鼠色の料紙をみると、これも染料によるものかもしれません。
飴細工が生み出すような伸びやかな動きのある曲線美、そしてポキッと折れてしまいそうな緊張感をも併せ持つ、軽重に富む、装飾性豊かな書です。料紙に点在する小さな虫喰いも、装飾経を観ているような気分にさせます。
本紙::25.9 X 34.5 cm 額:42.8 x 54.3 cm
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