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東大寺の大仏蓮弁に線刻された蓮華蔵世界の上部、釈迦説法図の釈迦如来の左右に従う菩薩衆の拓本です。
ふっくらと温雅な菩薩衆は薄墨色の拓により、一段と柔らかく優しく感じられるようです。静かなクリーム地の上下に、すっきりとしたブルーのラインが入る紙表具はおだやかで、本紙を上手に引き立てていると思われます。
紙面構成は上部と下部で大きく異なります。
上部は九躯の菩薩の顔と、それぞれの三重の頭光で埋め尽くされています。下部は幾重もの衣ひだの曲線が、いささかも鬱陶しくなく、みごとに流麗に描かれ紙面を埋め尽くしています。
釈迦如来の左右には本来、十一躯ずつ菩薩衆が描かれているのですが、その中でも九躯のこの部分を選んだのは意匠の紙面構成上面白いと感じます。
大仏蓮弁の線刻画は反花にはなく請花だけで、請花の広さは六畳敷とも八畳敷ともいわれているそうです。広大な画面から魅力的な部分を程よい大きさにカットしたように思われます。参考画像は図録『東大寺展』(昭和五十五年)の表紙です。本紙と同じ部分が採用されています。
「完全に亡失しているのは、大仏正面(南面)より右側の西面の六弁くらいで、東南より北西にかけてはよくのこっている。つまり火災のとき、火が西方から襲ってきたことを想像させるのである」『東大寺大仏蓮弁拓本』
拓本を前に、実に色々なことが脳裏をよぎります。
本紙、表具とも、特にシミやヤブレは見当たりません。
だいぶ大きめですが合わせの箱にお入れいたします。
本紙:68 x 65.5 cm 軸:146 x 69.5 cm
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