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栗色とでも言いましょうか、珍しい茶色の料紙に、美しい楷書が墨の色も鮮やかに整斉と並んでおります。
楷書はかちっとした感じではなく柔らかな印象ですが、粘りが感じられます。
以前、植村和堂先生が、隋の古写経について「粘り強さがあって、好ましい書風」と書かれているのを読んだ時は、写真が小さくよく分かりませんでしたが、このような書であったのかとおもわれます。
お経は、東晋の帛尸梨蜜多羅(はくしりみつたら/〜335-42)訳の『灌頂経』十二巻を構成する十二部の小経のひとつ『佛説灌頂摩尼羅亶大神呪經卷第八』です。
『仏書解説大辞典 第十巻』によると『摩尼羅亶経』について、
「仏が・・人民が諸の鬼神に悩まさるるを憐愍して、その諸鬼神の障を砕破するには、此の経を説くべしと為し、」また「仏説潅頂経巻第八の摩尼羅亶大神呪經とは広略の差はあるけれども内容は相似ている」とあります。
従って本経も、これらの鬼の名前を唱えることで災いから逃れられる陀羅尼、おまじない、のようなものでしょうか。
おどろおどろしい文字が並んでいますが、厄除けの護符のようなものとおもえば、飾って頂くのも気持ちがよいのではないでしょうか。
状態はとても佳いのですが、極小の孔が幾つかあります。拡大画像の「有」の両側に見えますが、実物では全くわからない程度です。
骨董雑誌に本断簡と同筆のもの(参考画像)が、東大寺伝来の唐経として紹介されているのを見つけました。
また「鬼」「酒」「復」等の珍しい異体字も本経が唐経であることの傍証と考えます。
本紙:26.2 x 12.3 cm 額:44.1 x 36 cm
どうもありがとうございました
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