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その伝来及び状態から「泉福寺焼経」と呼び慣わされる、平安時代の大変美しい装飾経です。
平安時代の書はもちろんですが、料紙の美しさにも定評があります。
現在では再現不可能と言われる、繊維染めの繊細な藍紙、ピンと張った金界、金箔の輝き、上下の焼痕が織り成すラインと色あい、見所は色々です。
焼け焦げの程度は様々ですが、本断簡は、焼痕のラインは変化に富み、そのグラデーションは美しく、それでいて、経文の部分は全く焼けていない、状態の良いものです。
経文は、「六十華厳」(*)と呼ばれる六十巻からなる東晋の仏駄跋陀羅訳『大方広仏華厳経』巻第八の「菩薩雲集妙勝殿上説偈品第十之二」の最後の偈の部分です。
美し料紙に書写された見事な書が、東晋の仏駄跋陀羅(359〜429)が訳した、大乗仏教の代表的経典のひとつである華厳経であり、それを平安人が書写したと分かった時、その美しさはひとしおではないでしょうか。
四行目、「三世明解脱.......」の一行を書写し忘れて、界線上に割り込ませています。
これほどの書き手が「ついうっかり」したのでしょう。大変珍しく、また面白いところです。
如来衆賢聖 出現於世間 爲開淨慧眼 令得永安樂
若見如來者 爲得最大利 聞佛名歡喜 則是世間塔
我等獲善利 現前覲如來 聞斯微妙法 悉當成佛道
三世明解脱 甚深諸境界 一切衆菩薩 清淨開慧眼
我等重歡喜 見佛盧舍那 無量無邊智 演説不可盡
無上慧堅固 及諸佛子等 無數億劫中 説佛徳無盡 |
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