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螺鈿というのは夜光会や鮑貝を薄く切って板状にし、漆で接着した後に研ぎ出して仕上げていく漆器の一技法です。もともとは中国や朝鮮にも優れた螺鈿細工が存在していましたが、これらの影響を受けてわが国でもたくさんの工芸品が制作されました。
その螺鈿を一番素朴な形で表現したこちらの箱。山水や人物を表現したものもそれはそれで素晴らしいものですが、こういったシンプルなべたに蒔いてタイプはとても好みなもんですから思わず競り落としていました。
塵居を付けた四隅は丁寧な仕事ぶり、雲形に切った脚を四つ付けていて大切なものでも収納したのでしょうか。同じ形でもっと大きなものは見たことがあったのですが、これはそれらに比較してとても小さく、そこが琴線に触れるポイントでした。大きなものは食籠としての用途であったみたいですが、この小さなものはなんだろう?内側はかなり水分で傷んだようにも見えますので、小さな菓子入れのようなものかもしれません。もっといい状態で残っていれば文房具入れのような硯箱のようなものと思いますが、荒れていた分水気にさらされていたのでしょうね。これはこれで働き者であった証拠ですので致し方ないところでしょうか。
それよりもこの大きく小さくイレギュラーに貼り付けられた青貝の見事さは十分に堪能できるコンディションなので良しとしましょうか。キラキラと柔らかく光るこれは、決して派手さはないものの、温雅な風情を醸してくれています。
箱というジャンルだけにもコレクターさんは存在しますがそんな方にも、また民藝というものにこだわったおられる方にも青貝ものは一つは欲しいアイテムでしょう。
お好きな方の座辺でいつまでも輝いていてくれるといいなと思っております。
横17.1 縦14.0 高さ13.2センチ
江戸時代頃
蓋の内側の隅に3か所ほどごくわずかな補修がありました。また見込みには擦れや漆の剥落などが見られます。蓋と身の合わせる部分は隅に摩耗があります。開けたり閉めたりの繰り返しでどうしても傷みやすい部分なので致し方ないでしょう。
高台内側の隅には亀裂が見られますが、この状態で長らく経過しており安定しています。
御売約ありがとうございます。
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