|
民間信仰の遺品はともすると土くれのように粗雑な扱いを受けることが多いものですね。特に明治維新や戦中戦後、あるいは高度経済成長期の昭和30年代頃など、幾多の困難や変化がやってくるたびに燃やされたり壊されたりしてしまったものも数多くあったように想像します。
そんな中をくぐり抜けて現代に残って来てくれたわけですから、ホントに感謝しなけりゃバチが当たるってなもんですね。さてそんな民間信仰の遺品の中で木彫仏というものは数多いかと思います。
その多くは恵比寿大黒のお二方。(二柱と呼ぶべきかな)それに阿弥陀さまやお地蔵さま、観音さまとこれらでほぼ9割を占める感覚でしょうか。
こちらはそんな中でも珍しい牛頭天王のお像ですね。牛頭天王は神仏習合の神さま、薬師如来の垂迹であり、またスサノオ信仰や蘇民将来信仰とも同一視される神さまであります。
平安時代からその信仰はあり、有名なところでは京都の祇園社、八坂神社の祭神で、この神さまを鎮めるための祭りが祇園祭でありますね。また神社から発行される牛王宝印の護符も有名なものでしょうか。
ちなみに牛王宝印の護符というのは、人と人とが固く結ぶ必要のある約束がある場合、その誓詞を紙に書き裏面に牛王宝印の版を押します。すると神力によって誓紙が力を持ち、もし約束を違えたものは牛頭天王の呪いによって命を落とすと考えられていたものです。
素朴な作りながら刻んだ刃物は鋭利で、ザクザクっと迷いなく彫られた髪や衣紋の表現は気持ちのいいものですね。材もかなり硬く堅牢なものを使っているようで、小像ながら重たい感覚です。民衆仏のようないい加減さはあまり無くて、地方作でしょうがきちんとした仏師の作りと思われます。
とは云えどことなくユーモラスな表情、また頭に彫り付けられた牛もいかめしさよりは愛らしさが先に顕ちますね。
過去にもいくつか出品させて頂いている、大変お世話になったIさんのコレクションの一つです。
Iさんのことはすでに書いたので詳細は割愛させて頂きますが、氏のような民間信仰を深く探求される新しい方のお手許に行けばまた私も嬉しく、Iさんも喜んで下さると思います。
高さ15.0センチ 横巾9.7センチ
江戸時代頃
虫食いなどもなくコンディションは非常に良好です。右手の持物である羂索は無くなっています。
御売約ありがとうございます。
|
|