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お茶道具というものは、格調高い立派なお道具がその姿をきらびやかに見せつけるもの、スノビズムの権化で敷居が高くてちょっと苦手・・と仰る方も世の中にはおられるかもしれません。
この命題は半分正解で、やはり半分は間違った認識であろうと思います。(間違った認識をさせてしまった側に非があるとまでは云いませんが、結果敷居の高いものにしてしまってそのままに置いたことはよろしくなかったでしょうね・・)
かく云う私も恥ずかしながらお茶を習ったことがありませんので、あまり偉そうなことは云えないのですがネ‥。
横道にそれそうになりましたが、格調の高いお茶の世界の素晴らしさは、それはそれとしておいといてですね・・、お茶の世界は昔から古民藝を上手に取り入れてきた世界であると思います。
室町時代の特権階級の書院の茶、これに疑問を持った村田珠光、武野紹鴎から始まる侘茶は利休によって大成されていくわけですが、書院の茶会であんなに立派な唐物を使っていたのと打って変わって、茶席に農具である信楽や備前の種壺を使ったり、竹を切っただけの簡素な花入を使用したりと、当時としてはとんでもないレヴォリューションを起こしていきました。
そんな流れから茶席も田舎家を模したようなものを作ったりと、庶民の何気ない道具を上手く吸収して、取り合わせの妙を表現する行為は江戸時代以降、ずっと試みられていることですね。
さてこちらは民具ではなく、最初からお茶道具として作られているわけですが、もともとは田舎家の縁側にポツンと置かれていたものが始まりだったでしょう。
木味を愉しみ、その経年変化で現れるやつれを愉しむ、そしてその素朴な盆を襟を正すようなスペースにポンと放り込んで組み合わせの驚きを狙ったものですね。
すでに昔からこの手の木地盆は評価が高まっていて、約束も多いものでした。材は松でなければ、見込みに節がなければ、四方の隅に鎬状の彫り込みがなければなど、この約束をクリアー
したものは珍重されて、価格もとんでもなく高いものでありました。
しかし敷居が高いお茶は高額なそれを使えばよろしいでしょうが、私など逆に身近に愉しむには
約束の外れたものを使った方がリーズナブルに愉しみやすく敷居が低くなっていいんじゃないかと
も思っています。
箱にもあるように桑の材を使用しているもののよう、ですから見込みには丸い大きな節は出来る訳もなく、波のようなキレイな板目が窺えます。
そしていちばんお道具から外れてしまうのは割れてしまったからでしょうね。疵物は名残の茶事
に使用する以外はタブーとされてしまった現状ではこのようなものは不合格品の烙印を押されてしまうかもしれません。
でも私はこの疵が、というよりこの修理が無かったら買っていなかったかも、と思っています。疵付けてしまった当時の所有者は心を痛めたでしょうが、漆で埋めて、意図的に金や銀の繕いを使い分けていますね。その証拠に外側に打たれた鎹、金の直し部分には赤銅、銀の直し部分には
やはり銀のそれを打っています。また透漆の部分などは鉄の鎹、口縁部には鹿角のちきりを入れる
凝りよう。この拘りまくった修理こそこの盆のルールに嵌まらない魅力があると思うのです。
そう私と同じように考えた方がこの修理をさせたのでしょうし、伝世の杉箱に収めて大切に伝えてきたのでしょう。
立派なお茶道具ではない魅力?そんなものを体現する、やっぱり民藝派の立派な道具なんではないかと思いますよ。
横30.5センチ 縦23.7~23.9センチ 高さ5.1センチ
江戸時代~明治頃
伝世の杉箱に収められています。貼札には「桑平煙草盆」と墨書きがあります。箱の畳付が一部外れて修理されています。また蓋の端の部分が虫食いによって欠けてしまっているところがありますが収納には問題ありません。
見込みに使用痕や擦れがあります。
参考画像は松の行李蓋の画像で、こちらは上記の約束に適った立派な?方の画像です。
盆百選 平安堂書店刊 瀬良陽介氏
御売約ありがとうございます。 |
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