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東京国立博物館の漆器のコーナーで、国宝の片輪車蒔絵螺鈿手箱というのをご覧になったことはあるでしょうか。平安時代を代表する漆芸品であり、料紙や和鏡などにも使用される、時代に好まれた意匠を巧みに取り込んだ名品ですね。
片輪車とは、牛車の車輪の干割れを防ぐために川に漬けておいた情景で、様々な工芸品の意匠に使われてきたのは上述した通りです。
そんな復古趣味が近世に花開くのは桃山から江戸の初期にかけての辻が花のような染織、あるいは織部に代表される陶器のジャンルでしょうか。南蛮渡りの奇抜で斬新なデザイン感覚と、古来から伝わる復古調との大胆なコラボレーションは世界に通じるバサラの感覚でありました。
さてこちらはその片輪車を画面いっぱい、実に大胆にあしらった箱。流水がないので水に漬けた情景かどうかはわかりません。心棒が見えているので牛車に取り付けられた状態なのかもしれませんが、いずれにしてもその半身を絶妙なバランス感覚で描いています。
用途はおそらく鼓や面など、何か特別のものを入れていたのではないかと推測しています。普段使いのものではもっと天板の蒔絵部分が擦れているように思いますので。
既に数百年を経たものでもこんな斬新で、ちっとも古臭くないものが存在し、なおかつ手にすることが出来る国、というのは世界中探してもなかなか存在しないのじゃないでしょうか。改めてこんなものが扱えることに感謝したいと思います。
それはさておき、見事な漆芸品と云うのは日本の風土が産んだ宝、ぜひとも大切に次世代に繋いでいきたい文化の命脈と思っています。
横33.5センチ 縦25.8センチ 高さ25.5センチ
桃山~江戸時代頃
全体に擦れ、打痕、剥落、亀裂なども見られます。
御売約ありがとうございます。 |
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