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個人的にずっと谷中安規作品を愛好して来て、この数年は東京アートアンティーク(旧 日本橋京橋祭り)でも特集をして来ました。そして少しでも多くの方に谷中の素晴らしい世界観を知って頂くべく、これからは当サイトでも少しづつご紹介して行こう!と云う訳で今回お初の谷中作品として、内田百間の短編集『王様の背中』(普及版)S 9年、の中に収められている『お婆さんの引っ越し』をまず選んでみました。この作品は内田の他愛ない(教訓めいた意味は全くないと序の中で本人が述べている)お伽話の挿絵として納められたもので、谷中独自の幻想世界が(子供を怖がらせない範囲で)良く表現されていると思います。
・・・陸橋を渡る汽車・松の枝・電柱・工場?・家?・画面中央のトンネルの手前は井戸?? 等々、芝居の書割り(舞台の背景として風景や建造物を描いた大道具 )の様な世界が、わずか縦 9cm × 横 11cm の中に実に効果的に配置されています。そして画面手前には、お婆さんの荷物を積んだ荷車を牽く男・その後を「…片方の目の下のくぼみに涙をためて…」杖を付いて追う腰の曲がったお婆さん・そのお婆さんを見送る親子。
注目すべきは主役のお婆さんをあえて薄刷りで摺り、観る者の視線を巧みにお婆さんに誘導している点。この辺りは自身の『*自刷り』による谷中の面目躍如といった所でしょうか。更に想像を膨らませればこの薄刷りが、望まぬ引っ越しをせねばならないお婆さんの不安感や命の火が消えかかっている影の薄さまでをも表しているかの様にも思えます。さすがにこの作家はたんなる風来坊などではありません!
◆ 版画:縦 9cm × 横 11cm
額:縦 26.7cm × 横 32.7cm × 厚 2.5cm
☆ 谷中についてはここに長々と書くよりもWiki をご覧頂く方がいいかと思います。https://ja.wikipedia.org/wiki/谷中安規
☆『*自刷り』とは?:江戸〜明治にかけての完全分業の版画(浮世絵等)に対し、作家自身が下絵・彫り・刷り(摺り)の全ての行程を一人で行う事で、より芸術性を高めようとした『創作版画』でのみ使われる用語。これに対し『機械刷り』(【白と黒】や【版芸術】等)や『後刷り』(本人以外により生存中または没後に刷られたモノ)といった用語もある。
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