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仏教美術のジャンルでは比較的身近な存在のこの瓦。しかし当たり前の話ですが文様の入った軒瓦は厖大な数の瓦の中のほんの一部ですから、総数では多いものでも見所のあるものというと極端に少なくなってしまいます。
日本に仏教が伝来した当初はすんなりと根付いたわけではなく、蘇我と物部の争いを経て崇仏派の蘇我氏が勝利し明日香村に日本で最初の寺院、飛鳥寺が建立されたのは推古4年(596年)のことと伝わっています。百済からやってきた瓦博士の技術を吸収し、屋根には板葺きではない本格的な瓦葺屋根が作られて人々の耳目を集めたことと思います。そんな瓦も彼の地のようなアルカイックな文様から和様式に変化していくのは陶磁と同じことですね。
こちらの瓦は平安宮の瓦を生産した、京都市北区の西賀茂角社町の大将軍神社付近で発見された瓦窯の出土品と思われます。非常に特徴的なのは中央のカニの爪風の装飾の中に「近」字が瓦笵によって刻まれていることですね。この字が入った瓦は未だに平安宮からの出土例がないそうで(同手で字のないものは淳和院からの出土例あり)、窯の構造があまり上手くいかなかったのか、おおよそ835年の年記がある文献から幡枝瓦窯あたりに生産がシフトしていったように考えられています。
通常の平安時代の瓦より大きなもので、なおかつ文様もだれたところがない古格のあるものですね。各国に造営された国分寺瓦はその多くが白鳳の瓦に比較して退化、低調なものになっていますが、さすがに都の瓦は製作には高い技術と意識がいまだにあって念入りな出来栄えになっているのがいいですね。通常の平安時代の瓦はもっと華奢で薄い作りのイメージですが、重厚でそれこそ東大寺のような大寺レベルのサイズ感もインパクトがあります。
古代の香りが座辺で味わえる佳品と思います。どうぞ身近に愉しめる仏教美術として長く座辺に置いて頂ければと思います。
最大巾24.0センチ 最大長24.5センチ 瓦当面の高さ9.5センチ
平安時代初期
平安博物館編 雄山閣出版発行の「平安京古瓦図録」の資料から同手が出土しているのが判明しています。コピーを添付してお送りします。
御売約ありがとうございます。 |
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