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唐津というやきものを数々ご紹介してきましたが、時折とんでもなくクエスチョンマークがつくような造形や絵付けを見かけることがあります。特に鉄絵が施されたいわゆる絵唐津のなかには、筆の走るまま、自由に墨絵の一幅をものするような感覚で絵付けたものも存在しますね。
これもそんな変わった絵付けのひとつでしょうね、もちろん私もこんな絵柄は初めて見ましたし、陶片でもさわったことは過去ありませんでした。
ちょっと前置きが長くなりましたがこのお茶わん、文字が描かれていますね。ハングルのような象形文字のようなものが全部で5文字、胴に入っています。かなり崩れた文字でハングルを理解している人でもわからないらしいです。もしかすると文字を知らない陶工が見よう見真似で描いたのかもしれません。ただ文字の筆さばきに逡巡がなく、思い切りがいいものなので、真似する人の屈託は感じられません。そこにはただただ天衣無縫、天真爛漫な文様が抜群にいい焼成の膚に焼き付けられているということだけ。唐津陶工、いやもともとの出自、朝鮮半島の人々のおおらかさが表出していると云えましょうか。
以前の所蔵者も不思議に思ったらしく、唐津研究で著名な佐藤進三氏を通じて東洋陶磁の大家、当時の東大教授、三上次男氏に鑑定して貰ったとの簡単なメモが添えられていました。ここでもかなりくずれた朝鮮文字である、と書いてあります。窯の特定もおそらく佐藤氏によるものでしょう、藤ノ川内窯であると極められています。
藤ノ川内は朝鮮唐津を焼いたことで一般的には有名ですが、その他アブストラクトで斬新な意匠を用いた茶道具を焼いた窯としても知られています。参考画像は上記の佐藤進三氏の「茶陶唐津」に掲載された画像で、抽象美術のような絵付けが施された半筒茶碗、そして鉄絵ではありませんが、彫りでやはり朝鮮文字を入れた器物の画像がありましたのでご参照ください。
窯のなかで隣の器物が倒れてきたようで歪みがあり、それで物原に捨てられてしまったようで、欠点なのかもしれませんが、しかしこんな作られた数がごくごく少ないものが歪まなかったら、こうして手許にやってくることもなかったかもしれません。よくこんな400年以上も前のものがこうして残ってくれたことに感謝しなくてはいけないのかもですね。そう考えると歪みも織部のような意匠にも思えてきて愛しい・・、とは云い過ぎかもしれませんが、なにしろきわめて珍しい愛すべき
一品であるのは間違いないようです。
口径6.4~13.9センチ 高さ5.8~7.0センチ
桃山時代
ゆがんだ形に合わせて前所蔵者が誂えた桐箱に収められています。茜色の更紗の包布が添っています。
口縁に金繕いが1か所、ニュウは2か所、そのうちのひっつき部分から入ったところを燻銀繕いにしてあります。ゆがみの原因である隣の器物のひっつき痕が胴にあります。しかし発掘ものとしては抜群にいいコンディションと思います。
御売約ありがとうございます。
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