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うちが備前(伊部)の茶碗を扱う事になるとは思いませんでしたが、むろん桃山備前ではありません(桃山備前の茶碗などおいそれと市井に転がってはおりませんので)。しかしながら、この作為と無作為の狭間の絶妙な頃合い加減は只者ではないと直感しました。全体の姿しかり、桟切りと呼ばれる窯変や胡麻の降らせ方しかり、低く小さく引き締まった高台しかり。そして何よりこの一碗を味わい深くしているのが一本の胴紐(沈線)ではないでしょうか。全体に薄作で手取りが軽い事もこの陶工の並々ならぬ力量を示しており、外側には『伊部手』の特徴である化粧土が施されていますが、高台周り・見込みは露胎となっています。
ひとつ、購入当初からこの【五】印は窯印一覧で確認はしていたのですが、永らく調べきれずにいたところ、先日 地元岡山の方から【五】銘は幕末の名工:森五兵衛(帆柱五兵衛)ではないかとのご教示を頂きました。つまり備前窯元六姓の一つ、森家の中でも細工物・茶器に特に名声が高い五兵衛の作であろうとの事。五兵衛は備前市の宇佐八幡宮 鳥居脇の巨大な狛犬の作者として地元ではつとに知られた名工。その狛犬には『文政九丙戌年(1826)九月吉日 備前窯元 森五兵衛尉正統』『伊部細工人 森五兵衛正統…云々』在銘。これだけ見ても五兵衛がいかに傑出した陶工であったかが分かろうと云うもの。
◆ 径:10×11,2cm、高さ:6,7cm。仕覆なし。
肉眼では殆ど分からない薄いニュウの長さ3cm(画像最後の二枚)。口辺のホツは5mm(画像最後から三番目)。
◎ ご売約となりました。ありがとうございました。
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