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すでによく御存知の方には余計な説明ではありますが、御存知ない方にもぜひこんな機会に知って頂きたいので蛇足を承知で少々解説させて頂きます。
馬板とは版木であり、その刷り物は祭礼の時に使用するものです。冬が終わり春の水ぬるむ季節になると、山におわす神さまは田植えを前にした田んぼに降りてきて、田の神さまとして収穫が終わるまでご滞在されます。山から下りてこられるときの乗り物が馬であるわけですが、この刷り物を竹に挿しあぜ道などに立ててお迎えする。つまり目には見えない神さまがしずしずと移動される場面を表現したものであるわけですね。
裕福な村であれば山のお社から依り代を本物の神馬に乗せてねり歩けばいいのでしょうが、貧しい村ではなかなか難しいので、そんな行為を象徴化して代わりとしたのかもしれません。奉納する神馬がだんだんと絵にかいた絵馬に変化していくようなものとも思われます。
さてこの馬板というもの、いろんなパターンがありますが、いちばん見かけるのは(といってもなかなか近頃ではコレクターさんの放出しか見ることはないものですが・・)馬一頭が単純に片面に彫られただけのものと思います。私自身もこれは実際にたくさん扱って来ました。サイズもあまり大きくないもので木っ端に彫ったようなものもあったと思います。また中には群馬や猿が一緒に彫られたものもあってそんな珍品はまた別格に珍重されたりもします。
こちらは私が扱ってきたものでは最大級、しかも両面であるのもまた珍しいところです。表の面には(どちらが表か裏かはまた微妙なところですが)大きな大人の馬、お尻が大きく脚が太く短い日本馬の特徴をよく捉えています。尻尾が後方になびき早駆けしている躍動的なシーンをうまく表現しています。
反対側の面には何となく小さいからかもしれませんが、仔馬が二頭、これも疾走しているような様子。特に向かって右側の比較的大きな方は頭を上に向けて欣喜雀躍とでもいったような風情が感じられます。
珍しければいいというものではありませんが、この馬板に心惹かれるのはこの馬の表現が素朴ながら見事である点でしょう。愛らしく優し気な馬の表情も感じられます。
華やかなスポットライトを浴びている美術の世界などとはまったく真逆の世界かもしれませんが、今こそこんな民藝、民間信仰の遺品を大切にしていかなければならないと痛切に感じています。
そしてそれこそが未来の古民藝好きの人たちへ贈ることのできる我々の義務であると確信しています。
横27.5 縦14.7 厚さ2~2.4センチ
江戸時代頃
補修や傷みなどなくコンディションは非常に良好です。
御売約ありがとうございます。 |
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