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大変珍しい、奈良時代の長屋王願経、無界の断簡五行軸装です。
長屋王願経には、和銅五年の発願により『和銅経』と称されるものと、神亀五年の発願により『神亀経』と称される、大般若経が二部あるうちの『和銅経』と考えられます。
「長屋王(天武天皇第八皇子高市皇子の長子)が文武天皇の崩御を悼まれて発願し、王の旧居である北宮に於て、経生を集めて大般若経一部を書写せしめられたものである。・・・現存のものを調査するに、凡そ六七人の書手によって書かれていることが分かり、願文は二人である。・・当時既に写経所の組織がほぼ出来ていたものと思われる」
『日本冩經綜鑒』田中塊堂
所謂奈良時代の、鋭く切れるような盛期の写経体ではなく、また、大聖武および、その影響を受けた後期の、威風堂々とした力強い筆致でもありません。写経所の体制ができ始めた頃、初期の写経体です。小粒で、素直で、温雅な書で、初々しくさえ感じられます。
本断簡は『大般若波羅蜜多經卷第一百九十九』からで、参考比較画像は『古写経 聖なる文字の世界』京博所載の和銅経『大般若波羅蜜多経巻第二百五十』です。
和銅五年と言えば、712年、太安万侶が『古事記』を編纂した年です。その原本が失われて久しい中、その時代の書だと思うと、大変感慨深いものがあります。
表装の上下は、袈裟をほどいたものを使用しました。
太巻き 本紙:24 x 12 cm 軸:100 x 28 cm
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