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もう一昔以上も前のこと。昨年亡くなったさる大コレクター氏に仕入れたばかりの猿投の耳皿をお見せしたところ喜んでは頂いたのですが、「買うから耳皿の完器をあと4枚探して来て五客揃いにしろ!」とのお達し。その方は気に入ったモノに遭遇するとテンションが上がって夢が膨らむのが常で、うれしい悲鳴的な注文を発令される事もしばしば。。。
さてそれから探し求めてはみたものの完器の耳皿なんてそうそうあるもんじゃない。会う度まだ揃わぬかと催促されるので、完器でなくとも魅力的な耳皿はいろいろあるとご説明し、なんとかハードルを下げてもらい、数年かけてキズがあっても釉薬が非常にきれいに掛かっているのや、大振りでベロベロの稀少タイプ(この手の完器はお目にかかった事がない)やらを含めやっとこさ4枚。それ以降はトンと出会わなくなり、いつしか五客組の夢は叶わぬまま旅立たれた。実はこの耳皿もその中の一枚だったが縁あって回り廻って戻ってきたもの。
◆ 長さ:9cm、幅:6cm、高さ:2cm。平安10c頃。
神社仏閣や役所・貴族用の特別な器物等を生産していた猿投窯にあって『耳皿』は他窯に類を見ない特殊な製品で、奉納用の箸置きであるとか。
元より祭器ですので品のある焼物ではありますが、中でも本品は無釉ながらただ単に完器というだけに留まらず、フォルム・曲線が特に美しい気品溢れる逸品です。
猿投通の地元の方ならご承知の通り、水に洗われ釉薬がすっかり禿げたスベスベ肌のコノ感じは東海の数寄者が『矢作川アガリ』と呼んで愛好する一群の内でしょう。
☆ ご売約となりました。ありがとうございました。 |
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